AIコンパニオンが「最初は神なのに、ユーザーが増えると急に遅い・忘れる・違和感が出る」のは、モデルの賢さではなく“インフラの物理”が原因です。
1万人規模では魔法みたいに感じたのに、100万人規模になると
- 返事が遅い
- 記憶が抜ける
- 口調がブレる(キャラが“アシスタント化”する)
といった現象が出る――これはよくあるパターンです。
結論を先に言うと、2026年の設計ではこう捉えるのが正確です。
チャットボットは主にCompute(推論)負荷。
AIコンパニオンは主にI/O(記憶の読み書き)負荷。
チャットボットは関数呼び出しのように伸び、コンパニオンは書き込みが多い分散DBのように崩れます。
本記事では、遅延(TTFT)・記憶の書き込み・コスト曲線の3点から、
「なぜAIコンパニオンがスケールで壊れやすいのか」を整理し、
無料サービスが劣化したり制限が必要になる理由まで解説します。
3カテゴリの全体像(先に地図を見たい方)
👉 https://lizlis.ai/blog/ai-companions-vs-ai-chatbots-vs-interactive-storytelling-2026/
1) ステートレスなチャットボットが“綺麗に”スケールする理由
多くのユーティリティ系AIチャット(問い合わせ、検索、要約、コーディング補助)は、基本的にステートレスです。
- 入力が来る
- プロンプトを作る
- 推論する
- 返す
- 終わり
「永続的な世界状態」を同期する必要がないので、
ロードバランサで水平分散しやすく、キャッシュも効きます。
そのため、推論最適化(TTFT改善、バッチ、実行ランタイム改善)がそのまま効きます。
たとえば推論運用の参照として、NVIDIA NIMのような“推論を速くする”系の仕組みが活躍します。
- NVIDIA NIM: https://developer.nvidia.com/nim
- Docs: https://docs.nvidia.com/nim/index.html
2) AIコンパニオンは“記憶が商品”なのでスケールが汚くなる
AIコンパニオンが提供している価値は「答え」ではなく、連続性です。
- 好み(例:きのこ嫌い)
- 関係状態(距離感、信頼、境界線)
- 先週の出来事
- キャラの人格(同一性)と安全性(逸脱しない)
そのため1ターンが、単なる推論ではなく“パイプライン”になります。
- 長期記憶の検索(ベクトル検索)
- ユーザー/世界状態の取得(SQL/グラフ)
- 人格+安全ルールの適用
- コンテキスト合成
- LLM推論(プロンプトが大きい)
- 出力の安全チェック
- 新しい記憶の書き込み(埋め込み+インデックス+メタデータ)
つまりAIコンパニオンは、
高頻度で書き込みが発生するDBアプリケーションに、確率的推論(LLM)が乗っているもの
として捉える方が現実に近いです。
3) “500msの会話予算”でコンパニオンは死に始める(TTFTの壁)
会話はテンポが命です。
分析なら数秒待てても、会話の“間”は数百msのズレで一気に不自然になります。
ここで重要なのが TTFT(Time To First Token) です。
ストリーミングで生成中の遅さは隠せても、最初の1トークンが出るまでは隠せません。
そしてTTFTは、入力(prefill)が長いほど悪化します。
- ステートレスBot:システム+質問(短い)
- コンパニオン:システム+人格+記憶+世界状態+履歴+質問(長い)
つまり、記憶を入れるほど最初が遅くなる。
ここが「生きてる感」が崩れる第一のポイントです。
さらに安全チェックを入れると、遅延は増えます。
- PurpleLlama / Llama Guard: https://github.com/meta-llama/PurpleLlama
- NeMo Guardrails: https://docs.nvidia.com/nemo-guardrails/index.html
安全は必須ですが、コンパニオンは“遅延余裕”が小さいため、ここが致命傷になります。
4) 静かに殺すのは“書き込み増幅”(ベクトルDBが悲鳴を上げる)
典型的なRAGは「一度入れて何度も読む」です。
しかしコンパニオンは違います。
- ユーザーの発言ごとに新しい記憶が増える
- 返答ごとにも新しい記憶が増える
- それぞれが埋め込み+インデックス+メタデータ+保存を要求する
これが 書き込み増幅(write amplification) です。
代表的なベクトルDB(例):
- Pinecone: https://www.pinecone.io/
- Milvus: https://milvus.io/
- Weaviate: https://weaviate.io/
問題は「検索できること」ではなく、
リアルタイムで大量に“更新”することです。
5) HNSWは速いが、スケールすると“尾の遅延”が刺さる
多くのANN検索はHNSW系が高速で、特にRAMに載ると強いです。
しかし100万人規模で“書き込み”が増えると、次が起こりやすくなります。
- RAM要求が急増
- 挿入時の競合で遅延が跳ねる
- “たまに遅い”が会話体験を壊す(tail latency)
この「たまに遅い」が、AIコンパニオンでは致命的です。
6) DiskANNに寄せるとRAMは救えるが、遅延を払う
RAMを救うためにSSD指向(DiskANN)の設計に寄せると、
メモリ圧は下がりますが、SSD走査由来の遅延が乗ります。
- DiskANN GitHub: https://github.com/microsoft/DiskANN
- 紹介(MS Research): https://www.microsoft.com/en-us/research/publication/diskann-fast-accurate-billion-point-nearest-neighbor-search-on-a-single-node/
結果として「生きてる感」の閾値(TTFT/テンポ)に近いコンパニオンは、ここでも苦しくなります。
7) インタラクティブストーリーは“ルールと世界状態”で別の遅延が乗る
ストーリー/AI RPGは、記憶だけでなくルール検証が必要になることがあります。
- インベントリ
- 状態遷移
- 成功判定(攻撃が当たったか等)
その分レイテンシは増えますが、
ゲームはターン制の許容があるため、コンパニオンよりは耐えやすいこともあります。
参照例:
- AI Dungeon: https://aidungeon.com/
ただしストーリーは別の問題(整合性)を抱えます。
文脈を入れすぎると漂流し、減らすと忘れます。
8) インフラが崩れると、コンパニオンは“感情的に”壊れる
チャットボットは失敗しても「やり直す」で済みます。
しかしコンパニオンは違います。
- 遅延で“間”が死ぬ(存在感が消える)
- 記憶の遅れで“健忘”に見える
- 安全の誤検知で親密な場面が途切れる
- 人格の揺れで“ただのアシスタント”になる
一度“魔法”が壊れると、離脱は急激です。
なぜなら商品はテキストではなく、連続性の感覚だからです。
9) Lizlisの選択:上限(1日50通)で体験とコスト曲線を守る
Lizlis( https://lizlis.ai/ )は、AIコンパニオンとAIストーリーの中間に位置します。
だからこそ両方の課題を抱えます。
- 感情の連続性
- 物語の整合性
- リアルタイム性
- 持続可能なコスト曲線
そこでLizlisは 1日50メッセージ上限を採用しています。
これは単なるマネタイズではなく、品質と信頼のための設計でもあります。
- 無限の文脈肥大化を防ぐ
- 記憶ストアの書き込み増幅を抑える
- TTFTとtail latencyの悪化を抑止
- 過度な文脈削減(人格崩壊)を避ける
- ユニットエコノミクスを予測可能にする
制限は「欠点」ではなく、成功時に壊れないための保険になり得ます。
10) 60秒チェック:あなたが作っている(買っている)のは何か
次の価値が中心なら コンパニオン(ステートフル)です。
- 個人情報を覚える
- 週を跨いでも関係性を保つ
- 会話の“空気”が継続する
支配的なリスクは:
- 記憶検索の遅延
- 記憶書き込みのスループット
- 文脈サイズ管理
- 安全レイヤーのオーバーヘッド
次の価値が中心なら チャットボット(ステートレス)です。
- 今すぐ答えて
- タスクを終わらせて
- これを説明して
次の価値が中心なら ストーリー(状態+ルール)です。
- 世界の一貫性
- 進行と成長
- 物語の整合性
まとめ:2026年のモートは“モデル”ではなく“記憶インフラ”
最後に一文でまとめるとこうです。
AIコンパニオンの品質は、モデルではなく「遅延+記憶+書き込みスループット」で決まる。
モデルが優秀でも、
状態を高速に取得し、合成し、更新できなければ体験は壊れます。
カテゴリの全体比較(地図)はこちら:
👉 https://lizlis.ai/blog/ai-companions-vs-ai-chatbots-vs-interactive-storytelling-2026/